広島地方裁判所 平成5年(ワ)1672号 判決 1996年5月29日
原告
新宅典明
外二九名
原告ら訴訟代理人弁護士
廣島敦隆
同
中根弘幸
同
木村豊
同
山本一志
同
足立修一
同
久笠信雄
同
西原秀治
同
松永克彦
同
山口格之
被告
株式会社旺文社
右代表者代表取締役
赤尾文夫
右訴訟代理人弁護士
小林公明
被告(原告中津功の関係を除く)
株式会社アプラス
(旧商号・株式会社大信販)
右代表者代表取締役
前田英吾
右訴訟代理人弁護士
福永宏
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 原告らの請求
一 被告らは、別紙損害等一覧表の原告欄記載の原告中津功を除くその余の各原告に対し、連帯して、同表の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告旺文社は、原告中津功に対し、別紙損害等一覧表の請求金額欄記載の金員(金一〇一万三〇五〇円)及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告らが、株式会社総合教育システム研究所との間で受験指導契約を締結するとともに、被告株式会社アプラスとの間で右契約代金につき立替払契約を締結して(ただし、原告中津功の関係を除く。)立替代金を一括支払したところ、総合教育システム研究所及びその業務を引き継いだ株式会社アイテスがいずれも倒産し、右受験指導契約に基づくサービスを受けられなくなったため、同契約を解除した上、被告株式会社旺文社については総合教育システム研究所及びアイテスに対してその業務を委任し、あるいは委任したような外観を作出したこと(商法二三条、民法一〇九条)を理由として、また被告アプラスについては総合教育システム研究所及びアイテスと密接不可分な関係があったこと(割賦販売法三〇条の四、信義則)を理由として、右受験指導契約の不履行による損害賠償として契約代金の返還等を求めた事案である。
一 前提となる事実関係(争いのない事実、甲一の二ないし四、二、三、四の一ないし一一、五の一ないし一三、六の一ないし二〇、一八、一九、乙九、丙一、三ないし二〇、証人大西久美及び同芳賀弘己の各証言、原告岡本麻里の供述)
1 当事者
(一) 原告らは、後記の受験指導契約締結当時、大学受験を目指す高校在学生を子にもつ親であった。
(二) 被告旺文社は、図書及び雑誌の出版並びに販売、教育及び情報サービスに関する業務等を業とする会社である。
(三) 被告アプラスは、物品の割賦販売及びその斡旋並びにその取引に関する便益役務の提供等を業とする会社であり、平成四年四月一日、その商号を従来の(株式会社)大信販からアプラスへと変更したものである。
2 受験指導契約及び立替払契約の締結
(一) 原告らは、総合教育システム研究所との間で、それぞれ別紙損害等一覧表記載のとおり、受験指導契約(本件受験指導契約)を締結した。
(二) 原告中津功を除くその余の原告らは、被告アプラスとの間で、本件受験指導契約の締結日と同日、同契約に基づく契約代金の支払いについて立替払契約を締結し(本件立替払契約)、別紙損害等一覧表記載のとおり、立替金を一括支払した。
3 その他の経過
総合教育システム研究所は、その後、本件受験指導契約に基づくシステムを実施していたが、平成四年一〇月ころ、資金繰りに窮して事実上倒産した。
そこで、右ころ以降、アイテスが総合教育システム研究所の行っていた業務を引き継ぎ、本件受験指導契約に基づくシステムを実施するようになったが、平成五年二月ころ、アイテスも資金繰りに窮して事実上倒産した。
このため、原告らは、右ころ以降、本件受験指導契約に基づくシステムを受講することができなくなった。
4 本件受験指導契約の解除
原告らは、被告旺文社に対し、平成五年一一月二九日、債務不履行を理由として、本件受験指導契約を解除する旨通知した。
二 争点
被告ら(ただし、原告中津功の関係では、被告旺文社のみ。)は、原告らに対し、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、契約代金返還等の義務を負うかどうか。
1 被告旺文社の責任
被告旺文社は、総合教育システム研究所及びアイテスに対し、本件受験指導契約を締結することを委任ないし委託したかどうか。
また、仮に右が認められない場合、被告旺文社は、商法二三条又は民法一〇九条の趣旨により、右義務を負うかどうか。
2 被告アプラスの責任
被告アプラスは、割賦販売法三〇条の四の趣旨又は信義則により、右義務を負うかどうか。
三 争点に関する当事者の主張
1 原告ら
(一) 被告旺文社は、総合教育システム研究所及びアイテスに対し、本件受験指導契約を締結することを委任ないし委託した。
また、仮に右が認められないとしても、被告旺文社は、商法二三条又は民法一〇九条の趣旨により、原告らに対し、契約代金返還等の義務を負うというべきである。その具体的な事情は、次のとおりである。
(1) 総合教育システム研究所及びアイテスが行っていた本件受験指導契約に基づくシステムは、被告旺文社の商品である「突破ミサイル」又は「インストラクションテクノロジーシステム(ITシステム)」を使用するものであったが、右商品は、被告旺文社と株式会社東文教育システムとの間の取引基本契約、東文教育システムと株式会社アイペックとの間の商品売買基本契約及びアイペックと総合教育システム研究所との間の親子会社という関係に従って流通したものである。被告旺文社と総合教育システム研究所は、契約の上では間接的に結び付く形をとっていたものの、実体的には密接に関連していた。
(2) 総合教育システム研究所の担当者は、原告らに対し、本件受験指導契約の締結にあたって、「旺文社の総合教育システムないし受験学院」である旨を告げて、右契約に基づくシステムが被告旺文社の業務であるかのように述べたり、被告旺文社の名称の入った名刺やパンフレットを見せたりした。このため、原告らは、その主体が被告旺文社であると信じて、本件受験指導契約を締結した。
(3) 勧誘にあたって使用された名刺には、担当者の肩書として、「旺文社突破ミサイル受験学院」と記載されていた。
(4) 勧誘にあたって使用されたパンフレットのうち、「旺文社『突破ミサイル』現役突破ゼミナール」のパンフレットには、その表紙に「旺文社『突破ミサイル』」、裏表紙に「旺文社突破ミサイル受験学院」とそれぞれ記載されている。そして、その内容においては、「現役突破ゼミナールは、六〇年の伝統を誇る大学受験の『旺文社』と『受験学院』のきめ細かな指導体制から生まれた『現役合格』のための画期的な学習システムです。」と記載されており、被告旺文社の本社及び講師陣が写真付きで紹介されている。しかも、各システム(スターティングシステム、実力養成システム、進路指導システム、コンピュータ合否判定システム及びスクーリングシステム)の説明の中でも、被告旺文社に関する記載が随所に見受けられる。
また、勧誘にあたって使用されたパンフレットのうち、ITシステムのパンフレットには、その表紙に「旺文社インストラクションテクノロジーシステム」と記載されており、その内容においては、被告旺文社及び総合教育システム研究所の会社概要が写真付きで紹介され、両社が密接に関連しているものと見受けられる。
そして、被告旺文社は、総合教育システム研究所が右各パンフレットを作成するにあたり、写真等の資料を提供しており、右各パンフレットの内容を知っていた。
(5) 本件受験指導契約の入会申込書には、表題に「旺文社ITシステム」、左下部に「旺文社突破ミサイル受験学院」、右下部の担当者の所属欄に「旺文社突破ミサイル受験学院・広島」と記載されている。
(6) 本件立替払契約の契約書には、表題に「旺文社『突破ミサイル』」、商品(役務)等のお問い合わせ先欄に「旺文社突破ミサイル受験学院現役合格指導センター」と記載されている。
(7) 被告旺文社は、総合教育システム研究所から、契約者名簿の提供を受けて、原告らに対し、平成四年四月ないし同年五月ころ、「スクーリング」誌を送付した。右「スクリーング」誌には、被告旺文社と受験学院(総合教育システム研究所)が一体であるかのように記載されている。
(8) 前記のとおり、総合教育システム研究所及びアイテスが事実上倒産したため、原告らは、平成五年二月ころ以降、本件受験指導契約に基づくシステムを受講することができなくなった。
そこで、被告旺文社は、原告らに対し、右のころ、「『突破ミサイル』ご購入の皆様へ、旺文社現役合格サポートFAXシステムのご案内」と題する書面を送付したが、同書面には、「不幸にも、受験学院・ITセンターの継続が困難となり、皆様にご迷惑をお掛け致しますが、旺文社としましては、受験学院・ITセンターの指導に劣らぬようFAXを通じて皆様方の現役合格のお手伝いを致したく存じます。」という記載がある。これは、本件受験指導契約に基づく受験指導のサービスが被告旺文社の関与のもとに行われていたことを自認ないし追認したものというべきである。
そこで、原告らは、被告旺文社に対し、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、別紙損害等一覧表の請求金額欄記載の各金員(契約金額、慰謝料及び弁護士費用の合計額)の支払を求める。
(二) 本件立替払契約は、本件受験指導契約なくして存立し得ないものであるから、同契約と実体的に見て一体をなすものである。また、手続的に見ても、総合教育システム研究所と被告アプラスとの間の基本契約を前提として、総合教育システム研究所の担当者が本件受験指導契約及び本件立替払契約の各契約書を一括して作成しており、密接不可分の関係がある。したがって、原告中津功を除くその余の原告らは、割賦販売法三〇条の四の趣旨又は信義則により、本件受験指導契約上の事由を被告アプラスに対して主張することができるというべきである。
そこで、原告中津功を除くその余の原告らは、被告アプラスに対し、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、別紙損害等一覧表の請求金額欄記載の各金員(契約金額、慰謝料及び弁護士費用の合計額)の支払を求める。
2 被告旺文社
(一) 原告らの主張(一)のうち、冒頭部分は争う。
同(一)の(1)の事実について、原告らの自認するとおり、被告旺文社と総合教育システム研究所及びアイテスとの間には、直接の契約関係はなかった。
同(一)の(2)の事実について、総合教育システム研究所の担当者が原告らに対し、本件受験指導契約の締結にあたって、「旺文社の総合教育システムないし受験学院」である旨を告げて、右契約に基づくシステムが被告旺文社の業務であるかのように述べたり、被告旺文社の名称の入った名刺やパンフレットを見せたりしたことは知らず、その余の事実は否認する。
同(一)の(3)の事実について、総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用したものと原告らが主張する名刺には、右担当者が被告旺文社の使用人であることを示すような記載はない。
同(一)の(4)の事実について、総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用したものと原告らが主張する各パンフレットの裏表紙には、「株式会社総合教育システム研究所」と記載され、その商標が表示されている一方、被告旺文社の(登録)商標は、表示されていない。
同(一)の(5)の事実について、本件受験指導契約の入会申込書の中には種々のものがあり、原告らの主張は正確性を欠くというべきであるが、その点をひとまずおくとして、そもそも被告旺文社の商品である「突破ミサイル」の記載がないものがあるし、その記載があるものにしても、これは、あくまで同被告の商品の表示であって商号ではない。そして、右入会申込書には、いずれも「総合教育システム研究所」及びその受験指導役務の提供場所である「受験学院」の記載があり、総合教育システム研究所の商標が表示されている一方、被告旺文社の(登録)商標は表示されていない。また、右入会申込書の中には、担当者の所属として、「旺文社突破ミサイル受験学院・広島」という記載があるが、総合教育システム研究所の記載と併せて見ると、「旺文社」という記載に重点があるものではない。
同(一)の(6)の事実について、本件立替払契約の契約書の中には種々のものがあり、原告らの主張は正確性を欠くというべきであるが、その点をひとまずおくとして、商品(役務)等のお問い合わせ先欄には、「突破ミサイル」という商品と「受験学院」という受験指導役務の提供場所の問い合わせ先が別々に記載され(ただし、一部には「受験学院」という受験指導役務の提供場所の問い合わせ先のみが記載されている。)、本件受験指導契約の主体が総合教育システム研究所であることが明示されているというべきである。
同(一)の(7)の事実について、特に主張なし。
同(一)の(8)の事実について、原告らの主張する被告旺文社作成の書面に原告らの主張するような記載があることは認めるが、その余は否認する。右書面は、本件受験指導契約に基づく受験指導のサービスが被告旺文社の関与のもとに行われていたことを自認ないし追認したものではない。
(二) 原告らは、総合教育システム研究所との間で本件受験指導契約を締結するにあたって、被告旺文社と総合教育システム研究所との関係につき、電話照会等の方法によって容易に確認することができたにもかかわらず、これを怠ったものであり、この点において重大な過失がある。したがって、被告旺文社は、右契約の不履行による損害賠償として、契約代金返還等の義務を負うものではない。
(三) なお、仮に被告旺文社が右義務を負うとしても、原告らは、相当程度本件受験指導契約に基づくサービスを受講しているから、損害の算定にあたってこれを考慮すべきである。
3 被告アプラス
(一) 原告らの主張(二)は否認ないし争う。
(二) 本件受験指導契約の主な内容は、受験指導ビデオによる勉強であり、受験学院における受験指導役務の提供は付随的なものであるから、同契約と本件立替払契約が一体のものであるとは言えない。
(三) 割賦販売法三〇条の四の規定は、割賦販売契約の付帯役務部分には適用されないから、原告中津功を除くその余の原告らは、被告アプラスに対し、本件受験指導契約の解除をもって対抗することはできない。
また、仮に割賦販売法三〇条の四の規定が割賦販売契約の付帯役務部分に適用されるとしても、右条項に「割賦購入あつせん業者に対抗することができる」というのは、支払拒絶の意味であり、購入者が割賦購入斡旋業者に対し、右条項に基づいて既払金の返還を求めることはできない。
更に、本件立替払契約は、分割払を前提とするものではなく、原告中津功を除くその余の原告らにおいて手数料の支払を回避するため、本件受験指導契約に基づく代金の一括支払を申し出て、その支払につき被告アプラスを経由したものにすぎず、同被告は何らの利益も得ていないから、右原告らと被告アプラスとの間に信義則の働く根拠はない。
(四) なお、仮に原告中津功を除くその余の原告らの主張が認められるとしても、右原告らは、本件受験指導契約に基づき、受験指導ビデオをそのまま保有しているから、同契約の不履行による損害賠償として、契約金額全額を含めた請求は失当である。
第三 争点に対する判断
一 本件の事実関係について
1 被告旺文社、東文教育システム、アイペック、総合教育システム研究所及びアイテスの関係、商品の流通経路等
前記第二「事案の概要」の一の各事実に、証拠(甲二、三、四の一ないし一一、五の一ないし一三、六の一ないし二〇、一三、一六ないし一九、乙五の一及び二、六ないし九、証人芳賀弘己の証言)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(一) 被告旺文社と東文教育システムは、昭和六二年一〇月一日、同被告の製作する大学受験用ビデオ教材に関する取引基本契約を締結し、その後、同被告が東文教育システムに対し、同被告の商品である「突破ミサイル」(ただし、平成四年三月ころ以降は「インストラクションテクノロジーシリーズ」)を販売するようになった。
また、東文教育システムとアイペックは、平成二年四月一日、被告旺文社の製作する大学受験用ビデオ教材に関する商品売買基本契約を締結し、その後、東文教育システムがアイペックに対し、被告旺文社の商品である「突破ミサイル」(ただし、平成四年三月ころ以降は「インストラクションテクノロジーシリーズ」)を販売するようになった。
総合教育システム研究所は、アイペックを親会社として、昭和六二年二月二七日に設立された。そして、総合教育システム研究所は、アイペックから委託されて、被告旺文社の商品である「突破ミサイル」(ただし、平成四年三月ころ以降は「インストラクションテクノロジーシステム(ITシステム)」《アイペックは、商品の名称を変更した。》)を販売していた。
他方、アイペック及び総合教育システム研究所と被告アプラス(ただし、当時の商号は、株式会社大信販)は、平成二年五月二四日、被告旺文社の製作する大学受験用ビデオ教材に関する割賦販売について、委託契約を締結し、その後、被告アプラスは、被告旺文社の商品である「突破ミサイル」(ただし、平成四年三月ころ以降はITシステム)の販売について、一般顧客との間で、立替払契約を締結していた。
以上のような経過のもと、前記のとおり、原告らは、総合教育システム研究所との間で、本件受験指導契約を締結したものである。
(二) ところが、アイペックは、平成四年九月ころ、資金繰りに窮して事実上倒産した。また、前記のとおり、総合教育システム研究所は、同年一〇月ころ、資金繰りに窮して事実上倒産した。このため、同年七月二九日、アイテスが設立され、前記のとおり、アイテスにおいて総合教育システム研究所の行っていた業務を引き継ぎ、本件受験指導契約に基づくシステムを実施するようになった(アイテスとアプラスは、同月三一日、割賦販売について、覚書を交わしている。
なお、甲一三の報告書の中には、総合教育システム研究所と被告旺文社が提携し、平成四年四月以降、「突破ミサイル」の改良版である「ITシステム」の事業展開をした旨、また、アイテスの設立にあたって被告旺文社が出資した旨の記載があるけれども、他の証拠(証人芳賀弘己の証言)に照らして採用できない。
2 総合教育システム研究所の担当者の勧誘態度等
証拠(甲二、三、六の一ないし二〇、一二、乙四、証人大西久美及び同芳賀弘己の各証言、原告岡本麻里の供述)に弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(一) 総合教育システム研究所の担当者は、原告らに対し、本件受験指導契約の締結にあたって、「旺文社の総合教育システムないし受験学院」である旨を告げて、右契約に基づくシステムが被告旺文社の業務であるかのように述べたり、被告旺文社の名称の入った名刺やパンフレットを見せたりした。
(二) このため、原告らは、総合教育システム研究所が被告旺文社の関連会社あるいは系列会社ではないかと思って、本件受験指導契約を締結した。
3 総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用した名刺
証拠(甲六の一ないし二〇、一二、乙四、証人大西久美の証言、原告岡本麻里の供述)によれば、次の事実が認められる。
すなわち、総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用した名刺の体裁は、甲一二及び乙四のとおりであり、担当者の肩書として「旺文社突破ミサイル受験学院」と記載され、下部の(所属)欄に「株式会社総合教育システム研究所」と記載されている。そして、「株式会社総合教育システム研究所」の記載に続けて、その広島営業所の所在地及び電話番号並びに西日本事業部の所在地及び電話番号が記載されている。
4 総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用したパンフレット
証拠(甲二、三、六の一ないし二〇、証人大西久美の証言、原告岡本麻里の供述)によれば、次の事実が認められる。
(一) 総合教育システム研究所の担当者が勧誘にあたって使用したパンフレットは、甲二及び甲三のパンフレットである。
(二) 甲二のパンフレットは、「突破ミサイル」を商品とするものである。
右パンフレットには、その表紙に「旺文社『突破ミサイル』」、裏表紙に「旺文社突破ミサイル受験学院」とそれぞれ記載されている。そして、その内容においては、「現役突破ゼミナールは、六〇年の伝統を誇る大学受験の『旺文社』と『受験学院』のきめ細かな指導体制から生まれた『現役合格』のための画期的な学習システムです。」と記載されており、被告旺文社の本社及び講師陣が写真付きで紹介されている。
また、各システムの説明の中でも、被告旺文社に関する記載が見受けられる。すなわち、システムは、スターティングシステム、実力養成システム、進路指導システム、コンピュータ合否判定システム及びスクーリングシステムから成り立っており、高校在学生が大学受験の現役合格を目指すことを目的としているとされるところ、スターティングシステムにおいては、入会と同時に、入試の現状や対策を被告旺文社の豊富なデータをもとに説明するオリエンテーションを行うものとされ、次いで、実力養成システムにおいては、「突破ミサイル」と称する被告旺文社の大学受験ビデオ講座によって、被告旺文社のベテラン講師陣が豊かな受験指導のノウハウを活用して指導するものとされ、次いで、進路指導システムにおいては、「螢雪時代」で得た被告旺文社の情報網をフルに活かして、最新の入試情報や入試必勝作戦、進路決定のポイント、先輩からのアドバイス、スペシャルゼミといった情報を特別編集し、「現役突破ゼミナール」の受講生に配布するものとされ、更に、コンピュータ合否判定システムにおいては、被告旺文社の模試によって全国レベルでの成績をチェックし、旺LABOと称するコンピュータ合否判定システムによって志望校の合否判定等を行うものとされ、最後に、スクーリングシステムにおいては、別途希望した場合には、被告旺文社の主催する集中的な各期スクーリングに参加できるものとされている。
(三) 他方、甲三のパンフレットは、「ITシステム」を商品とするものである。
右パンフレットには、その表紙に「旺文社インストラクションテクノロジーシステム」と記載されており、その内容においては、被告旺文社及び総合教育システム研究所の会社概要が写真付きで紹介されている。
(四) そして、被告旺文社は、総合教育システム研究所が右各パンフレット(甲二、三)を作成するにあたり、写真等の資料を提供しており、右各パンフレットの内容を知っていた。
5 本件受験指導契約の入会申込書
証拠(甲四の一ないし一一、六の一ないし二〇、証人大西久美の証言、原告岡本麻里の供述)によれば、次の各事実が認められる。
(一) 甲四の二ないし五、七ないし一一は、「突破ミサイル」を商品とする本件受験指導契約の入会申込書である。
右入会申込書には、左下部に「旺文社突破ミサイル受験学院・株式会社総合教育システム研究所」、右下部の担当者の所属欄に「旺文社突破ミサイル受験学院・広島」と記載されている。
(二) 甲四の一及び六は、「ITシステム」を商品とする本件受験指導契約の入会申込書である。
右入会申込書には、その表題に「旺文社ITシステム」と記載されている(なお、甲四の六の入会申込書には、右下部の担当者の所属欄に「旺文社突破ミサイル受験学院・広島」と記載されている。)。
6 本件立替払契約の契約書
証拠(甲五の一ないし一三、六の一ないし二〇、証人大西久美の証言、原告岡本麻里の供述)によれば、次の各事実が認められる。
(一) 甲五の一ないし四、六ないし一三は、「突破ミサイル」を商品とする本件立替払契約の契約書である。
右契約書には、表題に「旺文社突破ミサイル」、商品(役務)等のお問い合わせ先欄に「旺文社突破ミサイル受験学院現役合格指導センター」と記載されている。
(二) 甲五の五は、「ITシステム」を商品とする本件立替払契約の契約書である。
右契約書には、その表題に「旺文社ITシステム」と記載されている。
7 被告旺文社によるスクーリング誌の発行
証拠(甲一一の一及び二、証人芳賀弘己の証言、原告岡本麻里の供述)によれば、次の各事実が認められる。
すなわち、被告旺文社は、総合教育システム研究所から、契約者名簿の提供を受けて、原告らを含めた「突破ミサイル」の受講生に対し、平成四年四月ないし同年五月ころ、「スクーリング」誌を送付した。右「スクーリング」誌においては、「受験学院からのご案内」として、受験学院の受講生については、旺文社模試の受験料が全額あるいは一部割引きとなる旨説明されている。
8 アイテスが事実上倒産した平成五年二月ころ以降の経過
前記のとおり、総合教育システム研究所及びアイテスが事実上倒産したため、原告らは、平成五年二月ころ以降、本件受験指導契約に基づくシステムを受講することができなくなった。
そして、証拠(甲一の一ないし七)によれば、被告旺文社は、原告らに対し、右のころ、「『突破ミサイル』ご購入の皆様へ、旺文社現役合格サポートFAXシステムのご案内」と題する書面を送付したが、同書面には、「不幸にも、受験学院・ITセンターの継続が困難となり、皆様にご迷惑をお掛け致しますが、旺文社としましては、受験学院・ITセンターの指導に劣らぬようFAXを通じて皆様方の現役合格のお手伝いを致したく存じます。」という記載がある。
二 被告旺文社の責任について
1 まず、被告旺文社が総合教育システム研究所及びアイテスに対し、本件受験指導契約を締結することを委任ないし委託したかどうかについて検討するに、前記一の1の事実関係に照らして見ると、右のような委任ないし委託の関係があったと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない(なお、証人芳賀弘己も、被告旺文社と総合教育システム研究所との間に契約関係はなかった旨証言している。)。
2 次に、被告旺文社が原告らに対し、商法二三条又は民法一〇九条の趣旨により、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、契約代金返還等の義務を負うかどうかについて検討する。
(一) まず、本件受験指導契約の主体が被告旺文社であるかのような外観が存在したかどうかについて検討するに、前記一の2ないし6の各事実に照らすと、右のような外観が存在したと認めるのが相当である。
右の点に関する被告旺文社の主張は前記のとおりであるところ、前記一の2ないし6の各事実に照らすと、右主張のうち、総合教育システム研究所の担当者の勧誘態度等に関する主張を除く部分については、概ねこれが認められる(なお、被告旺文社の登録商標は、乙一のパンフレット《旺文社CAIスクールシステム》の表紙下部に表示されたものである)けれども、右のような外観が存在したかどうかを判断するにあたっては、一般の顧客において、本件受験指導契約の主体が被告旺文社であるかのような誤認を生じる可能性があったかどうかを基準として判断すべきであるところ、前記一の2の事実に加えて、証拠(証人芳賀弘己の証言)によれば、一般の顧客から被告旺文社に対し、「受験学院」(総合教育システム研究所が設置していた教室をいう。)をやっているのは被告旺文社であるかどうか実際に問い合わせがあったことも考え併せると、一般の顧客において、右のような誤認を生じる可能性があったというべきである。
(二) 次に、被告旺文社において、右のような外観の存在を許諾し、あるいは黙認していたかどうかについて検討する。
(1) 原告らの主張に沿った事実としては、前記一の1、4の(四)、7及び8の各事実があり、また、証拠(甲二、三、一三、証人芳賀弘己の証言)によれば、「突破ミサイル」には実践用として不十分なところがあり、総合教育システム研究所が被告旺文社に対して右の点を指摘したため、同被告において「ITシステム」を開発し、平成四年三月ころ以降、本件受験指導契約の商品が「突破ミサイル」から「ITシステム」に代わったことが認められる。
(2) しかしながら、被告旺文社において、右のような外観の存在を許諾し、あるいは黙認していたかどうかについて検討するにあたっては、同被告に対し、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、契約代金返還等の義務を負わせるべき実体が存在したかどうかという観点から主に検討すべきである。
ところで、前記一の1及び4の(四)の各事実、そして前記(1)のとおり、「突破ミサイル」には実践用として不十分なところがあり、総合教育システム研究所が被告旺文社に対して右の点を指摘したため、同被告において「ITシステム」を開発し、平成四年三月ころ以降、本件受験指導契約の商品が「突破ミサイル」から「ITシステム」に代わったことについては、被告旺文社と総合教育システム研究所及びアイテスとの間に、商品面における一定の協力関係があることをもって、直ちに右のような実体があったと言うことは困難である。
また、前記一の7の事実については、証拠(証人芳賀弘己の証言)によれば、甲一一の二の「スクーリング」誌は、被告旺文社の商品である「突破ミサイル」を購入した者に送付されるものであり、本件受験指導契約を締結し、総合教育システム研究所の設置した「受験学院」と称する教室で役務の提供を受ける者だけに送付されるものではないことが認められるから、右事実をもって、直ちに前記のような実体があったと言うことは困難である。
更に、前記一の8の事実については、証拠(証人芳賀弘己の証言)に弁論の全趣旨を総合すれば、被告旺文社が原告らに対し、平成五年二月ころ、前記書面を送付してFAXサービスの提供を申し入れた趣旨は、被告旺文社としては、原告らに対して右のようなサービスを提供する必要はないと判断したものの、その社会的な責任を果たすためであったと認めるのが相当であるから、右事実をもって、直ちに前記のような実体があったと言うことは困難である。
他方、一般の顧客から被告旺文社に対し、「受験学院」(総合教育システム研究所が設置していた教室をいう。)をやっているのは被告旺文社であるかどうか実際に問い合わせがあったことは前記のとおりであるところ、証拠(証人芳賀弘己の証言)によれば、被告旺文社は、右のような照会があったため、総合教育システム研究所に対し、右のような誤解を一般の顧客に与えないよう注意したこと、そこで、総合教育システム研究所は、その営業会議において、営業担当者に対し、右の点を指導していたことが認められる。
(3) そこで、右(2)の各事情をも考え併せると、被告旺文社において、前記のような外観の存在を許諾し、あるいは黙認していたと認めることは困難であり、他にこれを認める的確な証拠はない(甲一三ないし一五の記載内容にはあいまいな部分もあり、右事実を認めるに十分とは言い難い。)。
3 そうすると、原告らの被告旺文社に対する本件請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
三 被告アプラスの責任について
1 原告中津功を除くその余の原告らが被告アプラスとの間で本件立替払契約を締結したことは、前記のとおりである。
2 そこで、まず、被告アプラスが右原告らに対し、割賦販売法三〇条の四の趣旨により、本件受験指導契約の不履行による損害賠償として、契約代金返還等の義務を負うかどうかについて検討するに、右条項に「割賦購入あつせん業者に対抗することができる」というのは、その規定の体裁上、購入者が請求を受けたときの対抗、すなわち支払拒絶を意味すると解すべきであり、購入者は、右条項に基づいて、割賦購入斡旋業者に対し、既払金の返還を請求することはできないと解するのが相当であるから、右原告らの主張を容れる余地はない。
3 次に、被告アプラスが右原告らに対し、信義則により、右のような義務を負うかどうかについて検討するに、前記一の1の事実に照らすと、右原告らが主張するように、本件受験指導契約と本件立替払契約が実体的・手続的に見て一体をなすものであると認めることは困難であり、他に右のような信義則が働く余地のある事実関係を認めるに足りる証拠はない。
4 そうすると、原告中津功を除くその余の原告らの被告アプラスに対する本件請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
四 結論
以上によれば、原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
(裁判官髙橋善久)
別紙損害等一覧表<省略>